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最高裁判所第三小法廷 昭和33年(オ)903号 判決 1960年10月14日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人花房多喜雄の上告理由第一点について。

原判決は、昭和二九年一〇月二六日本件家屋に対し、被上告人から強制競売の申立がなされ、右競売開始決定正本は同年一一月四日債務者浜本ムメヨ(当時の本件家屋の所有者)に送達された事実、次で浜本ムメヨは同三〇年二月一日死亡しその夫浜本茂が相続により本件家屋の所有権を取得した事実、所論賃料減額の合意は同年二月、当時の賃貸人たる浜本茂と上告人との間になされた事実、そして被上告人は同年三月二二日競落により本件家屋の所有権を取得した事実を順次認定したうえ、右賃料減額の合意は本件家屋に対する差押の効力発生後に成立したものでしかも被上告人を害するにいたるのであるから、上告人は右賃料の減額をもつて被上告人に対抗することは法律上許されないとしているのである。上告人は当審において上告人が本件建物附属の畳建具等を金七、〇〇〇円で競落し、その結果家賃の減額となつた旨主張するけれども、原判決は証拠にもとづいて右代金は僅かに金二、三〇〇円であると認定し右賃料の半額減額の合理性を否定し、結局、右賃料の減額が民訴六四四条二項所定の「不動産の利用、管理」の範囲を逸脱しないものであるとの点は本訴において立証されなかつたことに帰着するのであつて、如上原判決の判断はすべて正当であつて、この点に関する論旨は採用することはできない。

同第二点について。

かりに所論のように賃料減額の合意のなされた事実が当事者間に争いないとしても、裁判所が右合意の効力につき法律上の判断を示すことは何ら所論民事訴訟における当事者処分主義の法則に反するものではない。又所論のように後に請求の趣旨変更に際して減額をみとめてその範囲の賃料請求をした事実があるからといつて、この一事をもつてさきに被上告人がした解除の前提をなす賃料支払催告の効力に消長を及ぼすものとすることのできないことは当然である。右催告の当時被上告人が所論減額の効力を容認した形跡の本件においてみとめるべくもないことは原判文上あきらかである。論旨は理由がない。

同第三点について。

記録にあらわれた原審における弁論の経過に徴し、所論の点について、原審に所論のような釈明権不行使の違法あることはみとめられない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 池田克 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一)

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